P10~11 福祉見てある記65 「コロナ禍での医療ソーシャルワーカーの活動 ~療養病床における入退院支援の格闘~」 本研究所嘱託研究員      加來 克幸(医療福祉) はじめに  熊本県2次医療圏の熊本市は、全国に先駆け、大腿骨頸部骨折連携パスや脳卒中連携パスなど地域連携クリティカルパスが行われている地域です。地域連携クリティカルパスの中継ぎ、後方支援がスムーズにソフトランディングできるようにコロナ禍で医療ソーシャルワーカー(以下、MSWと略す)がどのような支援の工夫(支援の格闘)を行ったかを学びたく後方支援を担う病院の地域連携室を訪問しました。訪問した特定医療法人成仁会のくまもと成仁病院(写真①法人の概要)は、急性期医療機関からの受け入れが多く、適正な入院受け入れや退院患者に際し、病床運営会議等を開催し(写真②:病床運営会議)積極的に在宅復帰支援が行われています。その中心的役割を担う地域支援センター副部長の村上充氏(認定社会福祉士)に、コロナ禍での入退院支援を振り返っていただき、今後の新たな対応策について伺いました。 質問1:地域医療連携室の体制、スタッフ、特にMSWの業務について教えてください。  地域医療連携室は、連携室長の医師、看護師2名、MSW(社会福祉士資格)4名の計7名体制です。連携室のスーローガン『Face to Face ~顔の見える関係づくり~』を掲げ、日々奔走しております。  MSWの業務内容(写真③:地域医療連携室の主な業務内容)は多岐にわたり、電話対応に追われつつも、入退院に関わる相談・調整並びにそれにかかる支援、介護保険をはじめとした各種制度の利用相談及び利用調整、多職種とのカンファレンスへの参加・調整、地域支援活動など、一日があっ!という間に過ぎていく感覚があります。そのような中でも『利用者の想いをしっかりと受け止め形に変えて支援する!』の合言葉を日々心がけながら勤務しています。 質問2:コロナ禍での急性期病院からの法人での受け入れの工夫(顔の見える関係づくり)を教えてください。  当院のケアミックス型の回復期・療養型病院の役割は、① 地域の急性期病院が救急ストップという事態に陥らない様、迅速に入院受け入れを行う「ポストアキュート機能」 ② 入院機能を持たない地域の診療所等との病診連携による「サブアキュート」機能 ③ 周辺地域住民や、当院外来患者、居宅部門サービス利用者も地域性に十分考慮した入院受け入れを行うことが、当院の病院理念でもあり使命であると考えています。  コロナ禍前は、入院相談を受けた時点で急性期病院へ直接出向き、顔の見える連携で患者情報も含め様々な情報共有が図れていましたが、コロナ禍以降はどの病院も面会禁止となり病棟まで行くことが出来なくなった為、あえて看護師たちと同じく感染防具を身にまとい、MSWも送迎車両に同乗して転院者の病床へ伺い、ストレッチャーや車いす介助を行い病棟での情報収集を行うなどの工夫をしながら、お互いの関係性の維持に取り組んできました。 質問3:コロナ禍での退院支援に際し、配慮や工夫した点を教えてください。  コロナ禍以降、当院も例外なく院内への立ち入り規制がかかり、入院患者のご家族も含め面会制限を余儀なくされました。MSWとして「連携」や「繋がり」が希薄化していく社会へのジレンマが日々強くなっていき、閉塞感に苛まれる日々が続きました。そんな中でも、ICTの活用ができるようになってからは、当院連携室内でも大きな業務変革を起こすことが出来ました。法人の中で連携室はいち早くZoomアカウントを取得し、院内会議やカンファレンス、サービス担当者会議などに活用し、他部署や法人内各所へそれを広めていく事ができました。中でも一番大きな変化は、地域医療連携室で公式LINEを立ち上げ、面会規制がある中でも直接患者さんとご家族がいつでもWeb面会ができるような体制を作るなど、ご家族とMSWとの日々の連絡ツールとしても活用できる様になった事でした。退院支援の場面でも、自宅訪問や施設入所の際等のWebでの動画による訪問調査に活用するなど、日常業務の中でも今までとは違った連携スタイルを構築していくことが出来た事は、コロナ禍に関係なく大きな業務改善の一つとなり、私達MSWの意識改革にもつながったと考えます。 質問4:今後の地域医療連携室の展望について  今後の展望については、地域活動の一つとして病院の広報誌だけにとどまらず、連携室だより「Face to Face」(写真④:広報誌及び連携室だより)を年に数回定期的に発行し、連携室スタッフが地域の中で身近な存在となり、MSW自身が地域の社会資源の一つとなることが目標です!今までの支援の対象はどうしても病院の特性上、高齢者に偏りがちでしたが、今後はSDGs活動なども通じ地域社会にも目を向け、大人も子供も高齢者も障がいのある人も分け隔てなく、支援していける様な『地域で翔ばたく医療ソーシャルワーカー』を目指して頑張っていきたいと思います。 訪問を終えて  今回インタビューを受け入れてくださった地域医療連携室のメンバーの笑顔はとても素敵でした。コロナ禍では、院内の業務に留まらず、実習指導の受け入れができない際には他大学への学内実習講師、県内外への災害支援、地域への出前講座(Web等の活用)を通して、顔の見える関係づくりが途絶えることが無いように、ICTの活用導入などかなりご苦労された様子が伺えました。患者さん、ご家族への切れ目ない支援への工夫、職員間の情報共有の工夫、そして、地域全体への新たな支援の発信(通信だより)など、紙面では紹介できなかった各種統計資料や分析結果を閲覧させていただきました。限られた字数でしか報告できなかったのですが、病院の要でもある地域医療連携室の活動が読者に届けばと願う次第です。感染予防対策中にも関わらず、取材のご協力ありがとうございました。感謝申し上げます。